2016年3月21日月曜日

拳闘家×音楽家 ―第2部 指導―

「力を抜く」ということはピアニストにとってもボクサーにとっても重要ですが、ピアニストとボクシングトレーナーのおふたりはどうやって身体の力の抜き方を教えているのでしょうか。

ピアニストの佐藤さんは、日常生活の何気ない動きにあてはめてみるとのこと。

たとえば、子どもに教えるときには、自然な歩き方と変な歩き方をみせて、自然に歩いているように指をパタパタ動かしてみて、と伝えてみるようです。
大人の生徒さんの場合には、「野口体操」という脱力のエクササイズをしてもらうこともあるようです。


ボクシングトレーナーの加藤さんからは、素人だと、「スピードが早いと良い」と勘違いして、力が入ってしまうとのお話。

技術がないのにスピードを出そうとすると力みが出るので、スローでやってみることからはじめることが重要とのこと。
身体がコントロールできるようになってきたら、「そろそろスピードを出してみましょうか」という感じで導くようにしているそうです。

すると、佐藤さんも、ピアノでもゆっくりにしてみたり、分解してみることはよくあるとのこと。身体に覚え込ませてから、スピードをあげる、というのはご自身の練習でも実践されているようです。

おふたりとも「力を抜きなさい」というのではなく違う文脈に置き換えて伝えているというところが興味深かったです。

続いて、生徒さんや選手が自分のイメージ通りに動いてくれないとき、どう伝えるのか、という話題にうつりました。

佐藤さんは、語彙力が重要で、同じことを手を変え品を変え、いろんな言葉で表現すれば、そのうちどれかがヒットする、とのこと。

やはり日常生活の中のアクションを言葉にするのがよいようで、たとえば、女性の方の場合、「掃除機かける腕みたいに動かしてみてください」や「ドアノブをまわす手みたいに手首を使ってみてください」などと伝えてみるようです。

いっぽう、加藤さんは、(ご自身はフェンシング未経験だそうですが)、「フェンシングのイメージでついてみて」など、イメージを伝えることで、まっすぐパンチが出るようになる、という例を紹介されました。

佐藤さんも、瞬発力で音を出してもらいたいときは、「ボクシングのパンチみたいに打ってみてと」助言されることがあるようです。

さらに話題は「はまった教え方」と「失敗した教え方」に。

加藤さんは、事前にビデオで研究して、相手を思い通りに動かさせないような戦術を考え、それがはまったことがあるとのこと。

時には、選手が組み立ててきた戦術と違うことをしてしまうこともあるようです。
ボクシングでは、ラウンドの間に1分間の休憩があるのですが、その間に修正できることもあれば、逆にずれていってしまうこともあるので、休憩の間にかける言葉には気を付けないといけない、とお話されました。



佐藤さんの場合、3歳の子には物語仕立てにして「お日さまがぽかぽかしていて」というような比喩で伝えたときに、「わかってくれた!」という音が返ってきて、うれしかったとのこと。

いろんな比喩で伝えてみても、一切通じない大人もいるとお話されました。
「零点何秒、この音を伸ばせばいいんですか」などと理論的に確認したり説明しようとする方がおられるけれど、それは音楽ではない、と思われるようです。

繊細な身体の動かし方のイメージを、ことばで具体的に伝えるために、おふたりがさまざな工夫をされていることが印象的でした。

このあと、話はプロフェッショナルのみる目にうつり、玄人からみたプロの凄さについて語っていただきました☆